英タイトル: The Pianist公開年: 2002年
製作: フランス・ドイツ・ポーランド・イギリス合作
ご存知パルムドール受賞作。舞台は第二次大戦下のポーランド。天才的ピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの命からがらな逃亡生活を、ゲットーでの実体験を持つロマン・ポランスキーが監督した大作。
■ ストーリー
1939年、ナチス・ドイツがポーランドに侵攻。ワルシャワのラジオ局でピアノを弾いていたウワディスワフ・シュピルマンとその一家は、ユダヤ人に対するゲットーへの移住命令により、40年住み慣れた我が家をあとにする。ナチスの虐殺行為がエスカレートする中、ウワディスワフはカフェのピアノ弾きとして日々を過ごす。42年、シュピルマン一家は大勢のユダヤ人と共に収容所へ送られるが、ウワディスワフは警察の友人の手で一人収容所行きを免れた―。
(goo映画あらすじから抜粋)
個人的に試写会で1回、劇場で2回の計3回観賞した人生史上初の映画。
弾きたくても弾けずエアーピアノで我慢するシュピルマン、助かったと思ったら間違ってソ連兵に殺されそうになるシュピルマン、視界の限り続く瓦礫の中で行き場もなく佇むシュピルマン。
すごくいい。とにかくいい。
毎度、エンドロール中に席を立つ観客に「頼むから最後まで座っててよ」と心中願った作品。
初めて最近作の紹介だが、未見の方がいたらむしろありがたい。
これから語る話を斜め読みしてから、それそれTSUTAYAへGO!
※Vol.3の内容を踏まえているので、先にそちらを読まれることをお勧めする。
■ 「戦場のピアニスト」の背景
「シンドラーのリスト」、「ライフ・イズ・ビューティフル」、「コルチャック先生」、「アンネの日記」、そして「戦場のピアニスト」と、ぱっと思いつくだけでもユダヤ人迫害に関する映画は山のようにある。
ではご存知だろうか?
ナチス・ドイツがユダヤ人のホロコーストを目論んだその理由を。
案外、明確な回答をできる人は少ないのではないかと思う。
例えばこんな回答が想定されるところだろうか。
「キリストを裏切ったユダがユダヤ人だったから」
→キリスト教 × ユダヤ教対立の原点として、蔑視を生む土台ではあったが、ホロコーストの直接的原因としては不十分。第一ナチスとキリスト教は関係ない。
「ヒトラーがユダヤ人を下等人種として宣伝したから」
→ナチスの言い分の1つだが、所詮は突飛な仮説。重要なのはなぜ民衆がこの誇大妄想的仮説を信じたかという動機の方。
「ヒトラーは自らに4分の1ユダヤの血が流れていることを呪ったから」
→そういう説もあるが、真偽はともかくヒトラーの個人的問題に過ぎず、民衆には関係ないこと。
多分、世界史の教科書でも理由については詳しく書いていなかったように思う。
しかし、その答えははっきりしている。
ヒトラーが図ったのは国際ユダヤ金融資本、さらに一言で言ってしまえば
ロスチャイルド家の殲滅である。
突っ込みもあるとは思うが、少なくともロスチャイルドが"金満ユダヤ人"の象徴となり、民衆がナチスに同調し迎合した理由はこれだ。
【ユダヤ人とは?】
まずはユダヤ人そのものの定義に言及する必要があるだろう。
ユダヤ人とはユダヤ教を信仰する人々、またユダヤ人の母から生まれた子のことを指す。
どちらかと言えば人種より宗教的な枠組みの方が強い。大雑把な話、日本人でもユダヤ人と結婚し、ユダヤ教に改宗すればユダヤ人になれる可能性がある。
(実際には異教徒との結婚は歓迎されない上、改宗しても厳しいテストがあるのでかなり難しい)
彼らの受難の歴史は旧約聖書の時代にまで遡る。その長い物語については割愛するが、2,500年前バビロン捕囚後に解放されたユダヤ人が離散し、多くのディアスポラ(離散者)が各地へと散っていった。
ディアスポラたちは移住先で「よそもの」として扱われ、ヨーロッパでは後にゲットーと呼ばれる居住区にしか住むことができず、職業も自由に選択することは許されなかった。
許されていた職業は、キリスト教の世界ではご法度だった金貸しや質屋(利息を取るから)、金の保管人、宝石細工師などの「あさましい」仕事だけ。
【ロスチャイルド家の誕生】
そんな中、18世紀中頃のドイツはフランクフルトに赤い盾の看板を掲げる1軒のユダヤ商店が誕生する。
店主は赤い盾=Red shield=Rothschildを屋号とし、マイヤー・アムシェル・ロスチャイルドと名乗った。
歴史上初めて登場する初代ロスチャイルドその人である。
以降、子々孫々に渡って雪だるま式に富を築き、教科書に残る事件のフィクサーとして、世界史に君臨する一族の物語が始まる。
マイヤー・アムシェルは古銭販売と両替商を生業とし、一握りの財産を手にした。
伝説では、今際の際に5人の息子を呼び、それぞれヨーロッパ諸国に渡り、根を下ろすことを命じたという。
息子たちは父の遺言を忠実に守り、長男:アムシェル・マイヤー → ドイツ、フランクフルト
次男:サロモン → オーストリア、ウィーン
三男:ネイサン → イギリス、ロンドン
四男:カール・マイヤー → イタリア、ナポリ
五男:ヤコブ(ジェームズ)・マイヤー → フランス、パリ
と離散し、"ディアスポラ"として土地土地でビジネスを展開する。
※写真上から時計回りにアムシェル、サロモン、カール、ヤコブ、ネイサン
最初に頭角を現したのは三男ネイサンだった。
彼は類まれなる相場士の才能を発揮し、わずか数年でロンドン・シティでその名を噂される存在となった。遂には、"英雄"ナポレオン最後の戦争、ワーテルローの戦い(1815年)で自作自演の仕手戦を仕掛け、たった2日で濡れ手で粟のボロ儲けをした。
5人兄弟は、ヨーロッパ中をネットワークし、それぞれの持つ情報をいち早く伝えあうことで、誰よりも早く相場の動きを察知することができたのだ。(ワーテルローの時、伝書鳩がドーバー海峡を渡った話は有名)
彼らは親族の絆を重んじて同族結婚を繰り返し、不動の血族を形成していった。
以下、ロスチャイルド家が介在したと断定できる事件の一部を列挙してみよう。
アヘン戦争(1840年)、セポイの反乱(1857年)、スエズ運河の買収(1875年)、
ボーア戦争(1880年)、日露戦争(1907年)、第一次世界大戦(1914年)、
ロシア革命(1917年)、世界大恐慌(1929年)、イスラエル建国(1946年)などなど。
ちなみに、現代の経済界でもロスチャイルド家の影ははっきりと確認することができる。以下、昨今のロスチャイルド系企業のほんの一例。
金融:ロスチャイルド銀行、ゴールドマン・サックス、リーマン・ブラザーズ証券(ライブドア事件のフィクサー)、ソロモン・ブラザーズ証券(現在はシティ・グループ。平成バブル崩壊のフィクサー)、アメリカン・エクスプレス、モルガン・スタンレー、リップルウッド(旧長銀、新生銀行を買収→売却でがっぽり)
鉱業:アングロ・アメリカン(金銀銅など)、リオ・ティント(ウランなど鉱物)、デビアス(ダイヤ)
保険:ロイズ保険組合
穀物:穀物5大メジャーのうちコンティネンタル・グレイン、ブンゲ、ルイ・ドレフュスの3社
食品:ネッスル、ユニリーバ(リプトン、ブルックボンドなど)
石油:ロイヤル・ダッチ・シェル、ブリティッシュ・ペトロリアム(BP)
ファッション:カルティエ、LVMH
酒・タバコ:LVMH、ギネス、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ
レジャー:地中海クラブ(クラブメッド)、マンダリン・オリエンタルホテルグループ(アヘン貿易で儲けたジャーディン・マセソン系)
映画:ハリウッドメジャー・スタジオのうちMGM、20世紀フォックス、パラマウント、ワーナー・ブラザーズ、ユニバーサル
未だに世界の金・ダイヤの価格を決めているのはロスチャイルドだし、目下日本でも大騒ぎしているけど、石油による利権は対抗するロックフェラー系かロスチャイルド系が二分している。
他にもワイン好きであれば、知らぬ者はいないボルドーのラフィット・ロートシルト(Chateau Lafite Rothschild)、ムートン・ロートシルト(Chateau Mouton Rothschild)の2大シャトーはその名の示す通り、ロスチャイルド家のもの。
― 話がそれた。
時代を巻き戻すと、第一次大戦後、泥をなめる不況に喘でいたドイツ国内において、"金満ユダヤ人"に対するやっかみが起きるのは無理もない話であり、ナチス・ドイツはこの不満につけこんだのだ。
宣伝相ヨーゼフ・ゲッベルス指揮の下、ナチスは巧妙に苦境の原因をロスチャイルドに負いかぶせた。
当時の大衆の心情を如実に反映した言葉を引用しよう。
「ヒトラーは言葉巧みに我々を扇動した。しかし、あいつが喋る言葉の中にいくつかの事実があったから誰もが飛びついてしまったのだ。」

ナチスがポーランドで配った風刺画。キャプションは「ポーランドの本当の現実」みたいな意味。
ゲッベルスのプロパガンダはうまくいった。
結果、ドイツ国民の憎しみは燃え上がり、何百万人というユダヤ人は絶滅収容所へ送られ、ロスチャイルド家もオーストリア、フランス、同盟国イタリアと勢力を拡大したナチス・ドイツの前で息もたえだえの痛手をこうむった。
しかし、誤解を避けるために、ここではっきりと明言しておかなければならない。
確かにロスチャイルド家は莫大な財産を保有していた。
だからといって、迫害され虐殺された多くのユダヤ人もそうであったかといえば、それは事実と異なり、あるものは現地の生活に溶け込んで慎ましく暮らし、あるものは変わらずゲットーで糊口をしのいでいた。
つまりは「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」の心理であり、ほとんどは完全な"とばっちり"であった。シュピルマンもその被害者の1人ということになる。
いずれにしても、なんぼ恨みがましいとはいえ、武力によって財産を収奪することは狂信的暴力行為に他ならない。
以上、長くなったがホロコーストの裏にはこのような社会背景があった。
車椅子ごと窓から落とされたり、ドレミファ形式で処刑されたり、血も涙もない蛮行にドイツ兵を駆り立てた感情はこのように醸成されたのだ。
このことを念頭に置いて映画を鑑賞すると、また違った観点が生まれるのではないだろうか。
■ ポランスキーだからできたこと
監督のロマン・ポランスキーの壮絶な人生についても触れておこう。
彼はユダヤ人として生まれ、実際にゲットーで生活した経験を持ち、母親はナチスに殺されている。
彼の受難はここに始まるが、映画監督として成功しアメリカに渡ってからも妻の女優シャロン・テートをお腹の子もろともマンソン・ファミリーに惨殺される悲劇に遭う。
その後、精神崩壊をきたしたとも噂され、少女に対する性犯罪で告発されたのち、アメリカを逃げるように出国した。
ゆえに「戦場のピアニスト」でアカデミー監督賞を受賞するも、アメリカに入国することはできなかった。(逮捕されちゃうから)
ポランスキーは本作の監督に対するオファーを何度も断ったという。
無理もない話だ。しかし、結果として自らのトラウマをなぞり、この作品を世に送り出した執念に敬意を表したい。
■ 参考文献
「赤い楯―ロスチャイルドの謎」 広瀬隆著 / 集英社刊
ロスチャイルドの歴史について詳しく知りたければ一読されるとよい。膨大なデータをよくぞここまで整理したものだと感心する。特に精密な家系図はすごい。でも、「それは正直苦しいっす」って感じる著者の無理矢理な推論も結構挟んでいるので、フラットな視点で読まれるよう注意されたし。
Vol.7 「二百三高地」
Vol.6 「ジョニーは戦場へ行った」
Vol.5 「ヒトラー 〜最後の12日間〜」
Vol.3 「戦争のはらわた」
Vol.2 「炎628」
Vol.1 「西武戦線異状なし」




