9:30に起床。
今日で相棒のマーは日本に帰国し、自分は昼過ぎの飛行機でブルネイへの1泊旅行に出かけ、明日の夜KKにとんぼ返りする予定である。
共有スペースでトーストと紅茶の簡単な朝食を済ませた後に、身支度を始めた。
ブルネイは厳格なイスラム教国なので、お酒は一切手に入らない。
しかし、特例で外国人の場合は、ウィスキーやワインなら2本、ビールなら12缶まで自分で持ち込むことができる。
なので、晩酌用にとNormanからビールを2本買った。
すると、そのやりとりを見ていたドイツ人のおじさんが一言。
「なんだ?お前はブルネイに10分しかいないつもりか?」
いかにもドイツ人なボケである。
チェックアウトし、一泊分の宿代RM20とビール代を支払う。
幸いマーとは飛行機の時間がそう変わらなかったので、タクシーを呼んでもらって一緒に空港に向かうことにした。

お見事な青空の下、空港までの15分間、快適なドライブであった。

KK市内にあるモスク
空港に着き、先に自分より1時間ほど早い便で日本に発つマーがチェックインする。
早すぎたのだろうか。自分の搭乗するロイヤルブルネイ航空のカウンターは開いていないようなので、ぼーっとマーが手続きを終えるのを待った。
マーが戻ってきたので、そろそろ自分もチェックインしようと思い、インフォメーションでロイヤルブルネイ航空のカウンターはどこか聞いてみた。
ロイヤルブルネイなら1階下だと言うので、マーにつきあってもらい、言われるままエレベーターで下りてみた。
するとそこは妙に閑散としたフロアで、寒々とした廊下が奥まで続き、ほんとにこんなところに出発カウンターがあるの??と言った感じだった。
果たして"ROYAL BRUNEI AIRLINES"の看板を掲げた一室を見つけ、ほっとして中に入る。
中にはぽつんと女性が1人カウンターデスクに向かっていて、パスポートとEチケットを出し、チェックインしたい旨を告げると、どういうわけかきょとんとした顔をされた。
そして出てきた一言がこれだ。
「お客様。本日はブルネイ行きの便はございません。」
「へ?」
いやいや何言ってるの、ほらちゃんとチケットだってあるんですから、とEチケットを見せる。
間違いなくそこには今日の日付が記されいてる。
しかし、それを見た彼女の口から衝撃の一言がこぼれだす。
「・・・お客様。このチケットは今日の夜0時のものです。
つまり、お客様が乗られるはずだった便はすでに出航しました。」
え?
え?
え?
一瞬咀嚼するのに時間がかかった。
そ、そんな馬鹿な、と奪うようにチケットを見直すと
Depart 12:55AM
と書いてある。
えーと、ちょっと待てよ、12:55AMってことは午前12時ってことだろ、午前ってことはお昼の前だから、その前に時計が12:55を指すのは・・・
ア"ーーーーーーーーッ!!!

一瞬思考が止まり、山海塾の決めポーズ(↑上記)で虚空を見つめていると、心配したマーが安否を問うように「大丈夫?」と話しかけてきた。
はっきり言って大丈夫ではなかったが、我に返りお姉ちゃんに、じゃあ次の便はいつ?払い戻しはできないのか?他の航空会社で今日ブルネイに飛ぶ便はないのか?などを矢継ぎ早に質問した。
無情にも彼女はほとんどの質問にふるふると首を振るだけだった。
ダメだとわかると今度はなんだか腹が立ってきて、
12:55AMって、この書き方じゃ大概昼の便だと思うわ!
それなら0:55AMって書くのが筋だろ!
などの正論から
ってことは、そんな深夜に俺を未知の国に落とすおつもりだったのか!
などの屁理屈まで、都合よく自らの過失を消化するかのように、理不尽な怒りが沸き上がってきた。
とりあえず、ここにいても埒が明かないことはわかったので、忸怩たる思いは飲み込んで礼の言葉を告げ、オフィスを後にした。
どうしたものか・・・。
計画は完全に狂ってしまった。
マーは言葉をかけづらそうにしつつも、励ますように声を掛けてくれる。
とはいえ、マーの出発の時間は刻一刻と迫っており、自分ごとのように困り顔を浮かべるマーの背を押して、彼を見送った。
こうして1人になった。
本当にどうしたものか。
ブルネイ行きはまだ諦めたくない。
でも現実問題飛行機はない。
そうだ、なんとか陸路で行けないだろうか?
距離的には不可能ではないはずだ。
そういえば、日本でブルネイについて調べた時にバスとボートを使ってKKからブルネイに行った人のブログを読んだ。
などと考えを巡らせているうちに、とにかくこう情報がなくてはどうにもならない、と
到着初日に行ったツアーデスクに行ってみる。
→見事に開いてねえ。
そうだインターネットカフェを探そう。
→そんなオシャレなものはねえ。
せめて本屋で情報収集を。
→はっ、影も形も見当たらねえや。
ついてない時とはこういうものだ。
思わず小声でヘルプミーと呟いてしまう虚無感であった。
こうなったら仕方がない。昨夜の宿Tropicanaに戻ってNormanに方法がないか聞いてみよう。
タクシーに乗り込み、さっきアゲアゲのテンションで通った同じ道を、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を観終わった貞子のようなサゲ気分で引き返す。
Tropicanaに着き、中に入るとNormanがゾンビでも見るような目で自分を見る。
事情を話すと野郎、腹を抱えて笑い転げた。
思えば昨夜、君らと宴をしていた丁度その時に、乗るはずだったブルネイ行きの便は行ってしまったのだから、ちょっとは同情してくれてもよさそうなものを。
まずはインターネットでロイヤルブルネイ航空とマレーシア航空の便を調べたが、確かに今日の便はない。
陸路で行く方法はないか?とNormanに尋ねたが、ないことはないが今から出発したら今日中には着けない、とのこと。
・・・いよいよ八方ふさがりだ。
最後の手段として今日の深夜に飛ぶブルネイ行きのチケットを買い直す、というのがあったが、なんだかそこまでしてブルネイにこだわるのもばかばかしく思えてきた。
オーナーのVincentがやってきて、やはり同じようになんでいるの?という顔をする。
説明すると、やはり大爆笑された後に、それは今回はブルネイ行くのは止めとけってことだよ、とずばり言われた。
言われてみればそうかもしれない。
そこで、冷静に考えを転換してみることにした。
【脳内会議議題】
「そもそも自分はブルネイに行って何をしたかったのか?」
ブルネイ国王が国民のために作った巨大遊園地ジュルドンパークで遊ぶ!
↓
30男が1人で遊園地に行ってどうする。
モスクを見物し、荘厳な気持ちになる!
↓
イスラム教徒でもないのに?この罰当たりが。
結局のところ、俺がしたかったのは、未踏の国を訪れ、パスポートに押されるハンコの数を増やしてほくそ笑みたい、そういうことではないのか?
ということはあれだ、結局のところ痛いのは、1ヵ月後にカードの請求が来た時に「あ?この$200ってなんだ?ああ、どぶに捨てたブルネイ行きのエアー代か」・・・と思い出してちょっと悔しい、
それだけのことだ。
こうして脳内会議を終えると、さっきまでの鬱な気分がなんてことなくなり、あと2晩KKで過ごすことにあっさり切り替えた。
そうVincentに告げると、なら折角ボルネオに来たんだから、ダイビングでもやってけよと提案された。
唐突の提案だったが、どのみち予定などあるわけがない。
そんなつもりは毛頭なかったのでCライセンスを携行しているはずもなかったが、Vincent曰く別になくてもなんとかなる、とのことなので、40秒で潜ることを決断。
Vincentはさくさくと手配をしてくれて、13:30には海に向けて車で出発した。
目を細めたくなるような晴天の中、海へと続く道を車に揺られ、なんだか妙なことになってきた、と一度底まで落ちたテンションが沸々と再燃してくるのが実感できた。
後編につづく
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